資料1-財団法人 笹川医学医療研究財団 平成13年度在宅ホスピスケア研究申請書より

在宅ホスピスケアの実施基準作成・実施状況調査

20年有余の歴史を持つわが国のホスピスケアは、施設ホスピス(=緩和ケア病棟)を中心に誕生し発展してきたといっても過言ではない。
施設ホスピスがこれまでに果たしてきた役割は今後も変わらないであろうし、診療報酬上の保証も約束されているので、施設ホスピスの質、量はこれからもますます充実していくものと考えられる。しかしながら、施設ゆえの限界があるのも事実である。
例えば、

  1. 施設ホスピスケアはあくまでマスを対象としたケアであり、施設の中で個別性を徹底することは極めて困難である
  2. 施設ホスピスケアでは患者のこれまでの人生を完全に継続することは困難であり、理想的な幕引きをするには必ずしも適切な場所ではない
  3. 施設ホスピスケアでは看取る家族の生活を分断することになる-つまり、家族は施設と家との二重生活を強いられることになる-ので、家族の負担、患者の不安が大きい
  4. 施設ホスピスは地理学上あくまで点に過ぎないので面としての日本全国をカバーすることが難しい

などの看過できない重大な問題点がある。
また、わが国においては末期がん患者の在宅死の頻度は依然として6~7%であり、しかもその多くはホスピスケアの形でサービスが提供されておらず、ケアの内容は不ぞろいである。従って、「末期がんになっても安心して家で死ねる国づくり」事業を推進することは、とりもなおさず、在宅ホスピスケアの質と量の充実、普及に努めることを意味する。

施設ホスピスに関しては、全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会が作成した「緩和ケア病棟の施設基準」、「緩和ケア病棟承認施設におけるホスピス・緩和ケアプログラムの基準」がある一方、在宅ホスピスケアに関する実施基準は在宅ホスピス協会が作成した「在宅ホスピスケアの基準」がある。在宅ホスピスケアを望む患者とその家族に対して提供されるケアの基準であるこの基準を現在の社会状況に適合するよう修正または新規作成し、在宅ホスピスケアを実施している全国の医療機関に実施状況の調査を新たな基準に基づいて行なう。

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在宅ホスピスケア実施医療機関のデータベース作成とその情報公開

在宅ホスピスケアの実施状況調査に基づき、実施医療機関のデータベースを作成する。
データベースには医療機関名称や医師、看護婦、住所などの基本情報、往診や訪問看護など医療サービスの提供情報、患者や家族への病状説明や精神面でのケアなどの実施情報、他医療機関や福祉・医療機器関連など他職種との連携やその他の提供サービス情報を含む。これらの情報を一覧性や検索機能をつけてホームページ上で公開する。

施設ホスピスが普及しつつあるわが国においては、「がんになっても安心して死ねる国づくり」の第一歩は固められつつある。これに反して、「がんになっても安心して”家で”死ねる国づくり」の総合的な取り組みはほとんど手つかず状態である。しかし21世紀の初めには、在宅医療推進を軸とした医療保険の充実が図られ、在宅介護充実を大きな柱とした介護保険があらたにスタートした。このように、在宅ケアのレールが国レベルで整備されたいまこそ、「がんになっても安心して”家で”死ねる国づくり」事業を全国規模で推進・展開する時が到来したと言える。
この時を実りあるときとするためには、在宅ホスピスケアの質の保証、担う医療者の育成による量の保証、そして普及活動などが必須である。このような観点にたっての総合的なプロジェクトは、わが国においてかつてなかったことであり、今まさに求められている一大事業といえる。

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本研究に関する国内及び国外における研究状況

※本研究に関連する研究業績も含む

死の看取りの哲学あるいはコンセプトを「ホスピス」といい、その哲学に基づいたケアを具体的な基準に則って行なったのは、英国ロンドンに誕生したSt. Christopher’s Hospice(1967年)であった。
St. Christopher’s Hospiceは52のベッドを持った「施設ホスピス」であるが、その7年後の1974年に米国コネチカット州のニューヘブンに誕生したホスピスは、ベッドを持たない所謂Home Hospiceの形をとっていた。世界的な視野に立てば、在宅ホスピスは、施設ホスピスとほぼ同等の長さの歴史を持っている。文献的なレビュー (データベース:National Library of Medicine) を行なうと明らかであるが、1970年代後半には在宅ホスピスに関する最初のレポート(2)が現れており、発表の時期からみても施設ホスピスに関する論文(3)と大差ない。在宅ホスピスケアはHome hospice careの和訳であるが、文献的にはHospice home care(4)、Home hospice(5), Home based hospice(6)などの用語が用いられている。

わが国において、「在宅ホスピスケア」という用語が学会誌に初めて登場したのは1991年(7)のことであり、この言葉と概念自体は比較的新しいと言える。しかし、その後専門書のみならず一般書において、在宅ホスピスに関する文献は多数報告されている。一方、在宅ホスピスに関する最初の日本語テキスト(8)は1991年に出版されており、同年末に翻訳本が発売(9)されている。在宅ホスピスケアに関するテキストは、その後いくつか(10)(11)出版されている。また、在宅ホスピスのケアマニュアルが総合健康推進財団で作成(12)され、全国の医療機関などで配布されている。
ホスピスケアの基準は1985年にNHO(National Hospice Organization)より公表されており、これが世界的なスタンダードとなっている。NHOの基準によれば、在宅サービスと施設サービスとは継続し統合されたものであり両者の基準は基本的に同じであるが、わが国の場合は施設ホスピスを中心にホスピスケアが発展してきたという歴史的な経緯から、施設ホスピスケア(13)、在宅ホスピスケアの基準(1)がそれぞれ別個に作られて公表されている。
ホスピスケアの普及に関連したわが国の動きでは、「日本死の臨床研究会」、「ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会」、そのほか「生と死を考える会」、「ホスピス研究会」、在宅ホスピスケアに関しては「在宅ホスピス協会」、「日本ホスピス・在宅ケア研究会」などがある。

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文献

  1. 川越博美、水田哲明:「在宅ホスピスケアの基準」についての解説 臨床看護 24:1125-1129, 1998.
  2. Plant, J. : Finding a home for hospice care in the United States. Hospitals 51:53,55,57-58, 1977.
  3. Ingles, T. : St. Christopher’s Hospice. Nurs. Outlook 22:759-763, 1974.
  4. Ward, B.J. : Hospice home care program. Nurs. Outlook 26:646-649, 1978.
  5. Amado, A., Cronk, B.A., Mileo, R. : Cost of terminal care; home hospice vs. hospital. Nurs. Outlook 27:522-526, 1979.
  6. Barzelai, L.P. : Evaluation of a home based hospice. J. Fam. Pract. 12:241-245, 1981.
  7. 川越厚、辻彼南雄、佐藤智:在宅ホスピスにおける症状コントロール 日癌治 27:1993-2000、 1991.
  8. 川越厚編:家庭で看取る癌患者-在宅ホスピス入門 メヂカルフレンド社 1991.
  9. Billings, J.A. : Outpatient management of Advanced Cancer, Lippincott Co. Philadelphia, 1985. 星野恵津夫訳:進行癌患者のマネージメント-症状コントロールと在宅ホスピス- 医学書院 1991.
  10. 石垣靖子:ホスピス・ホームケア-よりよい在宅ホスピスへの道- ユリシス出版部 1995.
  11. 川越厚編:在宅ホスピスケアを始める人のために 医学書院 1996.
  12. 高齢者在宅療養普及・啓発委員会 マニュアル作成分科会編:在宅ホスピス・ケアマニュアル 第一法規出版 1997.
  13. 全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会編:緩和ケア病棟承認施設におけるホスピス・緩和ケアプログラムの基準 1977.

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